夜明け前に出発したのに、結局、学校に着いたのは六時間後の十一時であった。学校は中学校で、早速授業を参観させていただいた。授業は活気のあるものであった。教室中に凛とした空気が漆っていた。ただ、やはり勉強道具類の不足は覆うべくもなかった。先生はチョークを小指の先ほどになるまで使っていたし、たいていの生徒は一本きりの鉛筆を大事に使っていた。そんな様子をみながら、おやっと思ったのは、生徒が全員清潔な制服を着ていることだ。男の子は白いシャツに黒いズボン。女の子は白いブラウスに黒のロングスカート。この点をコンボーン理事長に指摘すると、コンボーン理事長はいたずらをみつけられた子どものようにはにかんで、「授業料は一切取っていないのですが、制服だけは五米ドル出してもらって全員に着てもらっているのです。日本の学校のように。またポル・ポト政権以前の、かつてのこの国の学校と同じように」。後で分かるのであるが、このコンボーン理事長の想いこそ、まさにポル・ポト政権から命からがら逃れて、日本で生活を送ったコンボーンさんの辛酸に満ちた個人史、そしてこの国の悲惨な過去、そしてこの国の人々の想いを代表するものであったのである。
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